潰瘍性大腸炎・クローン病
潰瘍性大腸炎・クローン病

潰瘍性大腸炎・クローン病とは

潰瘍性大腸炎、クローン病はまとめて炎症性腸疾患(IBD)と呼ばれます。

IBDの患者さんは年々増加傾向にあり、若い方が多いものの、どの年齢層においても発症する事があります。どちらも原因不明の消化管の病気ですが、若干特徴が異なります。

発症すると下痢や血便、腹痛といった症状が続き、栄養状態の低下や貧血、その他様々な合併症を引き起こします(*潰瘍性大腸炎とクローン病で症状の出方は異なります)。
病状によっては、仕事や生活への支障の他、入院や手術が必要となる場合もあります。

診断には医師の臨床的判断が重要となりますが、内視鏡検査が不可欠です。

潰瘍性大腸炎・クローン病ともに難病に指定されており、まだ根本的な治療方法は見つかっていませんが、近年様々な薬が開発・承認され、高い有効性が確認されています。さらに、治療の選択肢が広がる事で複数の治療方法から自分に合ったものを選べるようになってきています。

気になる方は、一度当院までご相談ください。

また、前述の通り国の指定難病に登録されており、一部の患者さんを除いて医療費助成が受けられます。受給者申請については、主治医や各市町村の保健所へご相談いただければと思います。

当院の特徴

当院ではIBDの診療に従事した専門医の下、診断から治療まで幅広く行っております(水曜日を除く)。

診断や病状評価に必要となる内視鏡検査ですが、なるべく苦痛なく検査を受けていただける様、色々な工夫を行っております。また、各週ですが土曜日にも検査を行っており、仕事や学業などで平日お休みがとれない方も検査が受けられるよう配慮いたします。

治療については、内服治療や栄養療法に加えて、近年開発・承認され、高い治療効果を認めている生物学的製剤による治療も行っています。効果や安全性が確かめられた、厚生労働省のガイドラインや最新の知見に基づいた診療を行っていますが、画一的な治療ではなく、患者さんと相談の上、一人一人のライフスタイルや考え方に合わせた方法を提供いたします。

また、各医療機関と密接な連携をとり、特殊な検査や外科的治療、入院治療等が必要となった場合には、IBDの診療に従事した高次医療機関へご紹介いたします。

なお当院は難病の指定医療機関となっており、受給者証の申請・更新の手続きが可能です。すでに受給者証をお持ちで、当院での診療を希望される方は、医療機関の追加登録が必要となりますので、事前にご連絡・ご相談いただければと思います。

潰瘍性大腸炎について

病気の特徴(概要)

潰瘍性大腸炎とは大腸の粘膜に炎症が起き、びらんや潰瘍などができる病気です。特徴的なのは、直腸(肛門に近い大腸)から口側(上)に向かって炎症が連続的にみられる事です。クローン病と違って、基本的には大腸のみに炎症が起きます。

病気の原因については、腸内細菌の関与や免疫機能の異常をはじめとして様々な説がありますが、未だ不明です(国で難病に指定されています)。そのため根本的な治療方法はなく、治療の目標は炎症を抑える事にあります。炎症が落ち着いている状態を寛解期といい、炎症が起きている状態を活動期といいます。いかに寛解期を保つかという事が大事になります。

図:潰瘍性大腸炎の特徴

どのくらいの患者さんがいるのか?

2018年の厚生労働省の調査では、124,961人と報告されており、およそ千人に1人の計算になります。ただし、これは後述する受給者証を取得している方に限定した数字であり、軽症の患者さんを含めると、実際はもっと多いと考えられています。患者さんの数は近年増加傾向にあり、国が指定する難病の中で1、2位を競う数となっています。ちなみに都道府県別にみると、静岡県は全国10番目に多い県になります。

推定発症年齢

図:受給者証交付件数の推移

発症年齢は20~30歳にピークがありますが、小児から高齢者までどの年齢相においても発症します。男女比は1:1で性別の差はありません。

どのような症状が起きるのか?

下痢(便が軟らかくなり、回数が増える)、血便(血が混じった便が出る)、腹痛(間欠的な痛み、しぶり腹)といった症状がみられます。症状の出方は個人差があり、炎症の強さや範囲によって異なります。厚生労働省の分類で軽症、中等症、重症に分けられます。重症度が高くなると、発熱や体重減少、持続的な腹痛などの症状がみられる事もあります。

また、頻度は高くありませんが、時に合併症をきたす事があります。腸管に起こるものとして、大量出血、狭窄(腸の通り道が狭くなる事)、穿孔(腸に穴が空く事)、中毒性巨大結腸症(腸内に大量のガスや毒素がたまる事)などがあります。加えて炎症が長く続いた場合には、大腸がんが発生しやすい事が知られています。腸管外に起こるものとしては、関節や皮膚、眼、口、胆管の炎症などがあります。

図:潰瘍性大腸炎の主な自覚症状

出典:田辺三菱製薬様HP「知っトクカフェ」

図:潰瘍性大腸炎の主な自覚症状グラフ

出典:田辺三菱製薬様HP「知っトクカフェ」

どのようにして診断されるのか?

はじめに病歴聴取が重要となります。潰瘍性大腸炎は慢性の経過をたどるため、症状が長く続く事が特徴です。よく似た症状をきたす病気として、感染性腸炎や薬剤性腸炎などがあるため、問診や便の検査から鑑別を進めます。その上で内視鏡検査(大腸カメラ)を行い、潰瘍性大腸炎に特徴的な所見がみられるか、炎症の強さや範囲はどうか調べます。炎症の程度や範囲の情報は治療方法の選択に重要となります。また内視鏡検査の際に、大腸の粘膜の一部を採取して組織を調べます。生検とよばれるこの検査も診断に欠かせません。このように潰瘍性大腸炎は、様々な情報から総合的に診断されます。

図:大腸カメラ

どのような治療法があるか?

病気の原因が解明されておらず、完治に至る治療法はありませんが、炎症を沈静化し、症状をおさえる薬が存在します。治療の目標は炎症をおさえ(寛解導入)、良い状態を保つ(寛解維持)事です。

図:潰瘍性大腸炎の治療目標

出典:田辺三菱製薬様HP「知っトクカフェ」

当クリニックで行っている治療

  • 5-アミノサリチル酸製薬(5-ASA)
    潰瘍性大腸炎の治療の基本となる薬で、炎症をおさえる効果(寛解導入効果)も再燃を防ぐ効果(寛解維持効果)もあり、最も多く使われます。大きく分けて内服薬と局所製薬(お尻から入れる薬)の2種類があります。内服薬としては、サラゾスルファピリジン(サラゾピリン)、メサラジン(ペンタサ、アサコール、リアルダ)が、局所製薬には座薬と注腸製薬があり、炎症が起きている部位によって使い分けます。
  • ステロイド
    強力に炎症を抑える効果(寛解導入効果)がありますが、長期間の使用により様々な副作用をきたしやすくなるため、予防(寛解維持)には使用しません。5-ASAと同じように内服薬(プレドニン、プレドニゾロン)と局所製薬があり、炎症の部位によって使い分けます。
  • 免疫調節薬
    ステロイドとは反対に、炎症を抑える効果は強くないものの、寛解維持に対しては効果があります。形状は内服薬のみで、アザチオプリン(イムラン、アザニン)と6-メルカプトプリン(ロイケリン:国内未承認)があります。
  • 生物学的製薬・分子標的薬
    近年開発された、高い治療効果をもつ薬剤であり、寛解導入から寛解維持にまで使用されます。一般的に、中等症~重症の患者さんに対して、ステロイドが効かない場合やステロイドが中止できない場合に用いられます。製剤によって投与方法は異なり、新しい薬が続々と登場しています。2022年12月現在以下の薬剤が使用可能となっています。
    ※治療には予約が必要です
  1. インフリキシマブ(レミケード®):
    抗TNFα抗体製剤〔点滴製剤〕
  2. アダリムマブ(ヒュミラ®):
    抗TNFα抗体製剤〔皮下注射製剤〕
  3. ゴリムマブ(シンポニー®):
    抗TNFα抗体製剤〔皮下注射製剤〕
  4. トファシチニブ(ゼルヤンツ®):
    JAK阻害薬〔内服薬〕
  5. ベドリズマブ(エンタイビオ®):
    抗α4β7インテグリンモノクローナル抗体製剤〔点滴製剤〕
  6. ウステキヌマブ(ステラーラ®):
    抗IL-12/23p40モノクローナル抗体製剤〔点滴/皮下注射製剤〕
  7. フィルゴチニブ(ジセレカ®):
    JAK阻害薬〔内服薬〕
  8. カログラ(カロテグラストメチル®):
    α4インテグリン阻害薬〔内服薬〕
  9. ウパダシチニブ(リンヴォック®):
    JAK阻害薬〔内服薬〕

その他の治療

免疫抑制薬(タクロリムス)、血球成分除去療法、外科手術(大腸全摘術)などがあります。

どのような経過をたどるのか?

多くの患者さんは上記の治療によって寛解が得られますが、再燃する事も多いのが特徴です。再燃を防ぐためには、継続的な治療が必要となります。症状がなくても通院治療を続ける事が大切です。また、稀ではありますが大腸がんが合併する事がありますので、定期的な内視鏡検査がすすめられます。
内科的治療が効かない場合や重大な合併症(中毒性巨大結腸症や穿孔、大腸がんの合併など)が認められた場合には手術が必要となりますが、多くの患者さんの予後は良好です。

医療費の助成について

潰瘍性大腸炎は国が定めた「指定難病」のため、医療費の一部について国や自治体から助成が受けられる制度があります。必要書類を揃えて住所地の管轄の保健所で申請を行い、認定されると受給者証が交付され、医療費助成が受けられるようになります。申請書は県のホームページや各保健所窓口にて入手可能です。申請の際には医師の診断書が必要となりますが、難病指定医が所属する指定医療機関でのみ診断書の作成が可能です。なお助成を受けられるのは、中等症~重症の方もしくは、軽症だが医療費が高額となっている方です。

※当クリニックは難病の指定医療機関に認定されています

クローン病について

病気の特徴(概要)

クローン病(Crohn病)とは腸管に慢性の炎症をきたす疾患です。潰瘍性大腸炎との違いは、口から食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門と消化管のどの部位にも炎症をきたしうる事、炎症の部位が非連続性である(正常の部分と炎症部分がとびとびにみられる)事です。消化管の中でも好発部位は回腸末端(小腸の出口付近)です。

病気の原因については、遺伝的な素因や腸内細菌の関与、食事との関連、免疫機能の異常など様々な説がありますが、未だ不明です(国で難病に指定されています)。そのため根本的な治療方法はなく、治療の目標は炎症を抑える事にあります。炎症が落ち着いている状態を寛解期といい、炎症が起きている状態を活動期といいます。いかに寛解期を保つかという事が大事になります。

図:クローン病の病変

出典:田辺三菱製薬様HP「知っトクカフェ」

どのくらいの患者さんがいるのか?

2018年の厚生労働省の調査では、42,548人と報告されており、約3千人に1人の計算になります。患者さんの数は年々増加傾向にあります。都道府県別では、潰瘍性大腸炎と同じく静岡県は全国10番目に多い県になります。ちなみに静岡県の人口も全国10位であり、潰瘍性大腸炎とともに患者さんの数は人口に比例している様子です。

推定発症年齢

図:患者数

中高年の方でも発症する事がありますが、10~20歳代の若年者に好発します。男女比は2:1と男性が多い傾向にあります。

どのような症状が起きるのか?

炎症の部位や程度(性質)によって症状の出方は様々です。中でも比較的多くみられるのは、下痢、腹痛です。その他には発熱、血便、体重減少、腹部腫瘤、肛門痛などの症状もみられる事があります。
合併症として狭窄(腸管の通り道が狭くなる事)や瘻孔(腸管同士や腸管と他の臓器との間にトンネルができる事)がしばしばみられ、問題となります。また瘻孔が原因で膿瘍(うみがたまる事)ができる事もあります。狭窄ができると、腹部の張り感や腹痛が生じやすく、ひどいと腸閉塞になってしまします。また瘻孔ができると栄養吸収に障害をきたし、体重減少や倦怠感などが現れる事があり、膿瘍ができるとしばしば発熱や腹痛が認められます。
腸管外の合併症としては、眼や関節、皮膚、肛門などに炎症をきたす事があります。中でも肛門の病変は比較的頻度が高く、時に肛門の周囲に膿瘍をきたし、さらに痔瘻(肛門から皮膚に向かってトンネルができる事)がみられる事があります。

図:クローン病の症状図:クローン病の症状

出典:田辺三菱製薬様HP「知っトクカフェ」

どのようにして診断されるのか?

まずは問診による病歴聴取と血液検査を行います。上記のような症状に加え、血液検査で貧血や低栄養がみられる事があります。次に画像検査として内視鏡検査(大腸カメラ)を行い、必要に応じて胃カメラや小腸造影などの検査を行う事もあります。内視鏡検査ではクローン病に特徴的な所見がみられるか観察する他、小腸や大腸の粘膜の一部を採取して組織を調べます。組織でもクローン病に特徴的な所見が確認される事があります。またクローン病の場合、比較的症状が乏しいまま経過し、ある日突然急激な症状の悪化を認め、手術が必要となる事があります。手術で切除した組織を調べた結果、はじめてクローン病と診断される事も珍しくありません。

※造影検査や手術が必要な場合には、連携医療機関にご紹介致します

図:大腸カメラと胃カメラ

どのような治療法があるか?

病気の原因が解明されておらず、完治に至る治療法はありませんが、炎症を沈静化し、症状をおさえる薬が存在します。治療の目標は炎症をおさえ(寛解導入)、良い状態を保つ(寛解維持)事です。クローン病では自覚症状がないまま病状が進んでいる事があり、症状がなくても治療を継続する事が大切です。

図:クローン病の治療目標

出典:田辺三菱製薬様HP「知っトクカフェ」

当クリニックで行っている治療

  • 5-アミノサリチル酸製薬(5-ASA)
    クローン病の治療の基本となる薬で、炎症をおさえる効果(寛解導入効果)も再燃を防ぐ効果(寛解維持効果)もあり、最も多く使われます。クローン病では内服薬として、サラゾスルファピリジン(サラゾピリン)、メサラジン(ペンタサ)の2種類があります。
  • 栄養療法
    クローン病では食事からの刺激により症状が悪化する事があるため、腸管の安静によって病状の改善を図ります。また、栄養状態の改善効果も期待できます。栄養療法に使われる栄養剤として、成分栄養剤(エレンタール)、消化態栄養剤(ツインラインなど)、半消化態栄養剤(ラコールなど)があります。これら(特にエレンタール)は通常の食事と比べ、消化の負担が少なく、炎症のきっかけとなる刺激も少ない事が知られています。多くの場合、栄養療法は他の薬物治療と組み合わせて行われます。
  • ステロイド
    強力に炎症を抑える効果(寛解導入効果)がありますが、長期間の使用により様々な副作用をきたしやすくなるため、予防(寛解維持)には使用しません。内服薬(プレドニン、プレドニゾロン)がありますが、近年全身への副作用が少ないステロイドとして、ブデゾニド(ゼンダコート)が使用可能となりました。
  • 免疫調節薬
    ステロイドとは反対に、炎症を抑える効果は強くないものの、寛解維持に対しては効果があります。内服薬として、アザチオプリン(イムラン、アザニン)と6-メルカプトプリン(ロイケリン:国内未承認)があります。
  • 生物学的製薬・分子標的薬
    近年開発された、高い治療効果をもつ薬剤であり、寛解導入から寛解維持にまで使用されます。一般的に、中等症~重症の患者さんに対して、ステロイドが効かない場合やステロイドが中止できない場合に用いられます。製剤によって投与方法は異なり、新しい薬が続々と登場しています。2022年12月現在以下の薬剤が使用可能となっています。
  1. インフリキシマブ(レミケード®):
    抗TNFα抗体製剤〔点滴製剤〕
  2. アダリムマブ(ヒュミラ®):
    抗TNFα抗体製剤〔皮下注射製剤〕
  3. ウステキヌマブ(ステラーラ®):
    抗IL-12/23p40モノクローナル抗体製剤〔点滴/皮下注射製剤〕
  4. ベドリズマブ(エンタイビオ®):
    抗α4β7インテグリンモノクローナル抗体製剤〔点滴製剤〕
  5. リサンキズマブ(スキリージ®):
    抗IL-23p19モノクローナル抗体製剤〔点滴/皮下注射製剤
  • 抗生剤
    痔瘻や肛門周囲膿瘍に対して使用する事があります。

その他の治療

大腸の病変が主体の場合:血球成分除去療法
狭窄に対して:外科手術、内視鏡的拡張術
瘻孔に対して:外科手術
肛門病変に対して:ドレナージ術

どのような経過をたどるのか?

これまで、ほとんどの患者さんは生涯で一度は手術が必要となるとされていましたが、近年治療の進歩(生物学的製薬の登場)によって手術の割合は減ってきています。ただし、一度寛解に至っても再燃する事がしばしば認められます。再燃しても症状が乏しい事もあり、無自覚のまま炎症が長引くと狭窄や瘻孔が形成されてしまう事があります。狭窄や瘻孔に対しては内科的治療が効かない事も多く、無症状でも治療を続ける事、定期的な検査を行う事が大切です。

医療費の助成について

クローン病は国が定めた「指定難病」のため、医療費の一部について国や自治体から助成が受けられる制度があります。必要書類を揃えて住所地の管轄の保健所で申請を行い、認定されると受給者証が交付され、医療費助成が受けられるようになります。申請書は県のホームページや各保健所窓口にて入手可能です。申請の際には医師の診断書が必要となりますが、難病指定医が所属する指定医療機関でのみ診断書の作成が可能です

※当クリニックは難病の指定医療機関に認定されています